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誰が呼んだか「モンスターモデル」 ピュアドライブの奇跡と軌跡!(続編)

現代テニス発祥とともに歩み続け
プレーヤーと道具を結んできたバボラ社

コアテックス

元来、テニスというスポーツは、上流社会の人間だけが接することのできる、優雅な遊びでした。 テニスに似た遊びは、紀元前のエジプトにもあったと言われ、フランス貴族の遊戯として近世まで嗜まれていたのです。 ただし、統一的なルールは存在せず、道具も、コートの大きさや形もまちまちだったのです。
1874年にイギリスのW.C.ウィングフィールド大佐が、自分が考えた『ローンテニス』を商品化するために特許を取得して、現在のテニスの原型が芽吹いた頃は、サーブは下から打つのがマナーでした。
なぜなら、当時のテニスは、日本における「羽子板遊び」のようなもので、交互に打ち合って、長く続けることが楽しみだったからです。
しかし、そのわずか4年後の1877年、第1回ウィンブルドン大会が開催され、テニスは競技として新しい生を受けました。

みなさんは、バボラ社が、いつ誕生したかご存知ですか?
創業は1875年……そうです、現代テニスの元が誕生した翌年、さらに初めてのウィンブルドン大会の2年前に、テニスストリング専門メーカーとして存在していたのです。 バボラは、その頃からテニスと付き合ってきたのです。
142年もの間、バボラはテニスの進化とともに歩んできたわけで、ある意味では頑固にナチュラルガットのあるべき姿を守り、しかしながらその反面、つねにその変化に対応しながら、時代にマッチした製品作りを行なってきました。

その姿勢が、「モンスターラケット」「変わらないでほしいラケット」と言われる【ピュアドライブ】の進化にも表われているのです。2005年頃から、テニスのスタイルが大きく変化し始めます。テニスプレーヤーたちの体格が明らかに大きくなり、世界トップレベルのテニスは、従来に比べて急激に高速化します。
それまでは「テニスの高速化は、道具の進化によるところが大きい」と言われてきましたが、プレーヤー・パワーの進化が、道具の進化を追い抜き始めたのです。

そうなったとき、どんな問題が起きるかというと「プレーヤーたちの身体が受ける衝撃が増す」という避けられない現象です。
ラリーの高速化=衝撃の増加 ですから、大型プレーヤーたちは自らの身体を痛めつける方向へ進み始めたわけであり、もうそれにストップをかけることなどできません。
テニスとともに歩んできたバボラは、そうしたプレーヤーたちを守るため、新しい衝撃緩和システムを生み出しました。 それが7代目【ピュアドライブ】に搭載された「新型コアテックス」だったのです。

強烈な衝撃に立ち向かう強さを得た
7代目【ピュアドライブ】の革新的進化

ピュアドライブ 2012年モデル

従来のコアテックス(初代コアテックス)は、フレームの外側にセットされ、外から打球フィーリングの邪魔になる振動を制御しようという仕組みでしたが、それだけでは対処しきれない「衝撃」に対して、もっとアクティブに関与しようというのが、バボラが選んだ道でした。

従来の「アウトサイド・コアテックス」*を大きく進化させ、フレーム部とグリップを2分割して、その接合部にコアテックスを投入するという手法です。 これはいわば「ジョイント・コアテックス」*といったもので、振動・衝撃の伝達経路に、衝撃緩和システムであるコアテックスを割り込ませたもので、振動減衰性を明確に向上させることができました。

ただし、極端に柔らかい感覚になったというわけではありません。 それは前号でも話したとおり、インパクト時の振動や衝撃は、ボールとラケットの衝突状況を手に伝える「必要情報」であり、すべてのプレーヤーが、その情報を元に、脳が瞬時にして、相手への打球効果を分析し、次のアクションの準備を初めるのです。 また初級者にとっては、そのときのスイングと打球結果との因果関係を体得するための要素として、振動や衝撃を経験情報として蓄積します。 ですから、かなりの部分は残しておきつつも、身体にダメージを与えるほど大きな衝撃だけを取り除くレベルのコアテックスです。 正直なところ、初中級者レベルのスイングでは、新しいコアテックスの効果を感じることは難しかったでしょう。 従来の感覚のまま、使うことができたはずです。

ただ、ボールを激しく潰すことができるほどの高速スイングをするプレーヤーには、打球ダメージによる疲労や故障から守ってくれるシステムとして、多大な恩恵となったわけです。 コスメティックも、ブルーのイメージが強かった前もデルとはうって変わり、非常に黒の印象が強く、精悍な衣装を纏うことになります。 それまでの【ピュアドライブ】に、もっとも大きな進化をもたらした7代目と言えますが、それでもやはり【ピュアドライブ】であることに変わりありませんでした。

*は、筆者の独断的呼び名であり、バボラ社による正式な呼称ではありません

※ピュアドライブ 2012年モデル
従来はシャフトの外側に配置されていた『コアテックス』を、シャフトとグリップの間に介在させた7代目。ブラックの印象が強く、ヒュアドライブ独特の青さを抑えたモデルで、打球感は非常に評判が良かった。高速インパクトによる衝撃増大に対応すべく搭載された新コアテックスは、構造的革命をしつつも、打球感は漸進的なものに抑える味付けのうまさである

ピュアドライブは変わらないが「進化する」
5代目は衝撃緩和システム「コアテックス」搭載

ピュアドライブ 2015年モデル

それから3年後の2015年、【ピュアドライブ】は、ガラッとお色直しをした姿で、我々の前に現われました。歴代7モデルに比べ、明らかに「白いエリアが多いピュアドラ」だったのです。これにはファンであるピュアドライバーたちも、驚かされましたが、とても新鮮な印象を持って迎えた感があります。

シャフトの外側両サイドが純白で、それがブルーのダブルラインを通過して、フェイス上部 2/3くらいまで伸びていました。まるで「下から何かを持ち上げる様子」に見えるのですが、じつはそれが「新システムを視覚的に連想させる」巧妙な心理的コスメティックだった……それに気が付いたのは、じつはこの原稿を書くために前モデルを手に取って、まじまじ見ていたときでした。

あぁっ……そういうことだったのか……。
この8代目では、たしかにあるものが「持ち上げられていた」のです。それは「スウィートエリア」でした。
バボラの分析チームの目に留まったのは「トッププレーヤーたちのインパクトの位置」だったのです。
当時、開発中だったインパクト分析システム『バボラプレイ』の分析結果が、多くのプレーヤーが、従来よりも高い位置(面の上方)で打っていることを指摘したのです。プレーヤーは、少しでもスイングが描く弧の遠くの部分で打とうとしていました。同じスイングでも「近くでのスウィングスピード」と「遠くでのスウィングスピード」はまるで違い、身体より遠くで打つほうが、スイング加速が向上するわけで、プレーヤーたちは自然にそちらを選択していたわけです。

「スウィートエリアを、彼らがインパクトする位置に最適化しよう」
そう決めたバボラの開発チームは、ストリングパターンのもっとも濃密なエリアを、従来よりも「約3.5cm」、ストリングの格子にして「3コマ分」、スウィートエリアを上方へ移動させたのです。

そう……この新機軸を視覚的に伝えようとしていたのが「フレームサイドの白」だったわけです。
フレームコスメティックというのは、プレーヤーの心理に大きな影響力を持っていて、本人が知らぬ間に印象を埋め込み、プレーを変化させるという研究報告があって、それを利用したコスメティックデザインが施されているラケットがいくつかあります(詳しくは近日中に別稿にて)。
バボラから正式な説明を受けたわけではありませんが、おそらくそうした狙いのコスメティックデザインでしょう。

※ピュアドライブ 2015年モデル
多くのプレーヤーがラケットの先端側で打つ傾向に対応し、スウィートエリアを約3.5cm上方へ移動して、その部分のストリングの目を細かくしながら、高圧縮・高復元素材グロメットを採用して反発パワーを高めるFSIテクノロジーを搭載した8代目。フレームサイドの白の印象が強く、歴代モデルでも印象的なコスメティックを纏うモデル

8代目、もうひとつの新システム!
第2のウーファー「FSIテクノロジー」

FSIテクノロジー

この「白ピュアドラ」(筆者が勝手にそう呼んでいるだけ)には、特筆すべき新システムが搭載されることになります。それが「FRAME STRING INTERACTION」、日本語に訳すと「フレームとストリングとの相互関係」とでも言おうか、通称「FSIテクノロジー」。

そのメインシステムは、フレーム両サイドの中央からやや上方に埋め込まれている「高圧縮・高復元素材を採用したグロメット」に秘められています。
「高圧縮・高復元素材」とは、強い力を加えられたときに、「大きく潰され」、次に「強く元に戻ろうとする」ことで、インパクトの際にストリング面を大きめにたわませて(ホールド感が向上)、次の瞬間には強い力で押し出す(パワフルな反発)システムに利用したのです。

それは3代目【ピュアドライブ】が搭載して、このラケットをモンスターにした「ウーファーシステム」の「ピストン効果」と同じもので、「第3のウーファー」と呼んで然るべきものです。
初代ウーファーは、グロメットを厚く盛り上げることで構造的にピストン効果を生みましたが、FSIテクノロジーでは、素材自体にその効果を持たせたことで、従来のウーファーシステムよりも、コンパクトにフレーム内に組み込むことができるのです。

8代目を持ってらっしゃる方は、ラケットのフレームサイドに埋め込まれたグロメットスリーブを観察してください。
センターから上へ向かって105mmに渡って、上下のグロメットスリーブ(黒部分)と切り離されたグレー部分がありますね。
それが「高圧縮・高復元素材を採用したグロメット」です。

8代目は、新しいスウィートエリアのストリングパターンを密にしてボールを大きく潰させ、そこにFSIによるパワーを投入して、強烈なインパクトを実現する、きわめて競技的志向の強いモデルだったと言えるでしょう。

Text by 松尾高司(KAI project)

まつお・たかし◎1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー