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誰が呼んだか「モンスターモデル」 ピュアドライブの奇跡と軌跡!(後編)

ショップを席巻した「黄金スペック」モデル
だがその起源は【ピュアドライブ】

2007年、5代目【ピュアドライブ】が「コアテックス」(後述)を搭載してショップ店頭での中心アイテムだった頃、【ピュアドライブ】の基本スペックである「フレーム重量=300g、最大フレーム厚=25〜26㎜、フェイス面積=100平方インチ」という組み合わせの他社モデルが急激に増加しました。
【ピュアドライブ】の衰えることのない勢いが、「同じスペックを作って対抗せよ」という動きとなって、この3つのスペックの組み合わせを、まるで黄金比であるかのように守ったラケットたちがテニスショップに並んだのです。

それが「黄金スペックモデル時代」の始まりです。
内容を知らない人からは「よく売れるから黄金?」などと言われますが、そんな単純な発想ではなくて、数学的な「黄金比」を由来とする造語です。 黄金比とは、数学的、幾何学的に不思議な力を持った縦横比のことで、ギザの大ピラミッドやゴッホ作のモナリザなどに隠された数値であり、「我々人間が美しいと感じてしまう数値比」なのです。
そんな数値の組み合わせを、【ピュアドライブ】の3つのスペックと重ねているわけで、プレーヤーが快適に打てると感じるスペックの組み合わせが「黄金スペック」なのです。
ちなみに、黄金比に興味のある方は、名刺やパソコンのディスプレイ(解像度1920×1200)を見てください。 この縦横比およそ「5:8」の長方形が黄金比率ですよ。

その後、とくに気にせずに数年が過ぎ、1998年の全仏で大事件に遭遇します。 カルロス・モヤという選手が、日本では販売されていないラケットを使って優勝したのです。 それが2代目の【バボラ ピュアドライブ】でした。

さて、各社からさまざまな黄金スペックモデルが登場したり、どう見てもソックリにしか見えないモデルも登場しましたが、それによって【ピュアドライブ】の影が薄くなったということはまったくありませんでした。
むしろ「際立った」くらいです。
なぜならば、よほどのことがないと、オリジナルを超えることは困難だからです。
追いかける間に、オリジナルはさらに進歩していますから、同じ黄金スペックであっても、内容的にかなり方向性の違うものでなければ、オリジナルを凌ぐことなどできないのです。

しかも、それをやってのけたのがバボラ自身であったというのも面白く、【アエロプロドライブ】(現 ピュアアエロ)の登場によって、黄金スペックモデルの枠は、すべて埋まってしまったようなものでした。

※ピュアドライブ 2006年モデル
満を持しての機能追加が5代目の「コアテックス搭載」。以前の打感が好きという人もいたが、選手に衝撃感の減少という大きなメリットをもたらしたのは事実。コスメティックは複雑で派手なものになった

ピュアドライブは変わらないが「進化する」
5代目は衝撃緩和システム「コアテックス」搭載

日本に登場して以来、18年に渡り、基本的スタイルを崩していないのが【ピュアドライブ】のスゴいところと話しましたが、時代に対応しながら、ときに先取りしながら、少しずつ進化しています。 「なぁ〜んだ、少しずつかよ」とおっしゃる方がいるかもしれませんが、この「少しずつ」が肝心なのです。

ラケットというのは、おおげさに言えば、自分の腕や手と同じです。
それを簡単に違うものに付け替えるというのは、真剣にプレーする方にとっては考えられないことです。
自分の調子が良いときは「一生、このラケットのままでいい!」とさえ思うもの。
それくらい、自分とラケットとの関係は密接なわけですから、モデルチェンジされたときには、ドキドキハラハラしてしまいますし、もしもまるで違うラケットになってしまっていたら……と不安が募るものですね。

バボラが考えるのは、【ピュアドライブ】でありながら、プレーヤーメリットをいかに増やすか?であるように感じます。
【ピュアドライブ】は誕生以来、5回の技術革新を経てきました。
最初は、前述した「ウーファー搭載」で、これだけは【ピュアドライブ】に劇的な進化を与えました。
そのおかげで現在の【ピュアドライブ】があると言っても過言ではありません。
次の技術革新が「コアテックス搭載」で、これは必要最低限の変化に抑えています。

テニスラケットにとって「打球衝撃」も「打球振動」も、嬉しいものではない一方で、インパクト状態を知るための重要な情報でもあります。 もしもこれが極端に減らされてしまえば、インパクトの情報を敏感に感知することができなくなりますから、適度な衝撃・振動は必要であり、【ピュアドライブ】を使うプロプレイヤーは、それに耐えうる筋力を持っているため、衝撃対策の必要なしと言う方もいらっしゃいました。 ただテニスが高速化すればするほど、パワーアップに伴う衝撃は大きくなり、それを緩和しなければならず、バボラはそんなプレーヤーたちのことを思って、2006年の5代目モデルに、振動&衝撃緩和装置「コアテックス」を搭載したのです。

ほとんどのユーザーが「快適になった」と歓迎してくれましたが、打球感がマイルドになったことを不満に思う人たちがいたのも事実。 日本上陸以来、初めての技術革新を迎えたことで、「ピュアドライバー」と呼ばれるほどの【ピュアドライブ】愛好者の中には「コアテックスはないほうがいい」と言う人もいたのです。 逆に考えれば、それほど【ピュアドライブ】が愛されていたということです。

しかし、どんどん過激化するインパクトの衝撃、スピン量増加傾向のプレースタイル変化、ポリエステル主流のハイブリッドストリンギングなど、時代によるスタイルの変化は、インパクト衝撃の増大に拍車をかけるものでした。 こんな言い方をすると誤解を受けるかもしれませんが、一般愛好者レベルであれば「コアテックス」は必要なかったかもしれません。 衝撃緩和は「ウーファー」によってクリアされていたのですから。

でも、プロも使うラケットだけに、彼らに対するケアという意味では衝撃緩和装置「コアテックス」は必要となっていたのです。 時代に対応しながら、変更すべき部分を見極め、違和感なくスムーズな乗り継ぎが実現するようにアレンジを加える……それがバボラのやり方なのです。

6代目、バボラは素材に注目!
より堅固なフレームを生んだ「GTテクノロジー」

そして2009年、テニス界をあっと言わせた姿で、6代目【ピュアドライブ】がデビューします。何に驚いたかというと、衝撃的な青を纏ったコスメティックにです。 それまでは、黒ベースに淡めの青があしらわれているのが【ピュアドライブ】でしたが、6代目は真っ青! しかもかなりヴィヴィッドな青で、あまりの青さにピュアドライバーたちも目を見張ったものでした。

このときに加えられた改良もまた、強烈なインパクトで闘うプレーヤーを支えるためのもので、一般プレーヤーには、「ちょっとだけ当たりが軽快になったかな」といったレベルの「味付け変化」ほどに感じたかもしれません。 しかし6代目【ピュアドライブ】の本性は、もっと高い次元での戦いで牙を剥くものでした。 取り組まれたのは「超高速ラリーにおいて、追い込まれた場面でも『面が負けない』フレーム」の開発。 超高速ラリーでは、ほんのわずかな面のブレやしなりが、相手打球に押される状況を生み、狙いからやや外側に反れてしまうことがありますが、それを解消するために、フレームのしなりが素早く戻って、打球を真っ直ぐに打ち出せるように強化することでした。

数えきれない試行錯誤の末、バボラ開発チームがたどり着いたのが「カーボン×タングステン」という素材の採用です。 テニスラケットには初めて使われる、この新マトリクスは、「縦:0度のカーボン」に対して、「タングステンがほぼ直角に」織り込まれたもので、強靭な剛性を生み出し、効果的にフレームを強化することになるのです。 パワーロスにつながる打球方向へのしなりの低減、面安定性の増強が、トッププレーヤーが思い描くイメージどおりの弾道を実現することになりました。

バボラ【ピュアドライブ】のモデルチェンジは、「いかに守り、いかに進めるか」がポイントとなってきました。 進化の方向は、つねにハイレベルな戦いを支えるためにあったのです。

これが【ピュアドライブ】における『バボライズム』と言えるでしょう。

※ピュアドライブ 2009年モデル
全体イメージを変えずに進化させる「味付けの巧妙さ」を示したのが、素材にグラファイト・タングステンを採用した6代目。従来より「先が効く」コントロール性を備え、選手たちから大絶賛を受けたモデル

次号へ続く

Text by 松尾高司(KAI project)

まつお・たかし◎1960年生まれ。『テニスジャーナル』で26年間、主にテニス道具の記事を担当。試打したラケット2000本以上、試し履きしたシューズ数百足。おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー